混声合唱曲集 かなしみはあたらしい 音楽之友社

音楽之友社から「混声合唱曲集 かなしみはあたらしい」が発売になりました。

混声合唱曲集 かなしみはあたらしい 音楽之友社 販売価格1680円


音楽之友社
混声合唱曲集 かなしみはあたらしい【楽譜】

この曲集は谷川俊太郎の近作に付曲した4つの混声合唱曲からなるものです。各曲のスタイルは様々ですが、ポピュラー音楽の要素を強く持ち合わせている点は共通しています。とは言え、合唱でなければ実現できない仕掛けも備えており、聴後の充実感を目論んだ作曲姿勢を貫いています。詩の含意の読み取り方によって、あるいは歌い手の年齢層によって、多様な歌われ方が期待できるでしょう。
 最初に「未来へ」を合唱団京都エコー(指揮=浅井敬壹)のために作曲し、のちに埼玉県立大宮高等学校音楽部(指揮=三沢豊)によって他の3曲を含む全曲初演が行われました。若い人たちに合唱の素晴らしさ・楽しさを伝えたいという京都エコーの願いと、意欲あふれる若い合唱人たる大宮高校音楽部の存在によって、この曲集は生まれました。お世話になった皆様に心から感謝申し上げます。

 「歌っていいですか」は詩集『すき』(理論社)所収の詩です。問いの連続で構成されている詩ですが、問い続けることがすなわち答えなのだということを詩人は教えてくれています。曲は、ピアノの力強い4ビートを推進力とし、ロック調の語り口で言葉を畳み掛けます。

 「泣いているきみ」は詩集『私』(思潮社)に所収。12篇の詩から成る「少年」というシリーズに入っているものなので、詩の中の「きみ」は詩人(大人)目線から見た架空の少年か、あるいは詩人自身(過去の自分)かもしれません。しかし、この詩1つを取り出してみたとき、「きみ」の像は読者の読みに任されるでしょう。きみ=恋人という読み方も許されると思います。そんなわけで、曲にはそれとなく甘酸っぱい音色を滲ませてあります。70年代ポップス風のシンプルな和声と伸びやかなメロディーラインによるソングです。

 「かなしみはあたらしい」は『子どもの肖像』(紀伊國屋書店)に所収。写真家・百瀬恒彦と谷川俊太郎のコラボレーションによるポートレート詩集です。大人が忘れてしまった感情、あるいは大人の中に眠っているはずの感情を、鮮やかに掬い取って見せてくれる言葉たち。ミディアム・テンポのスウィング。

 「未来へ」は「歌っていいですか」と同じく『すき』に所収。曲はフォーク・ミュージック(「民謡」の意ではなくポピュラー音楽としてのフォーク)のスタイルをとっています。谷川俊太郎はかつて小室等などフォーク・シンガーと協働しており、60~70年代フォークの雰囲気が漂う詩が多くあります。陳腐な言葉にあふれ思考停止に陥っている現代日本にあって、谷川俊太郎の言葉は切実な問いとして私たちに投げかけられます。「未来へ」も、単に明るい未来を夢見させる内容にはなっていません。楽譜にギター譜が付いているのは、ギターを掻き鳴らしながら歌うのが似合う詩であると私が感じたからですが、これは軽薄な意味ではなく、詩意の切実さ(フォーク的気骨)に起因することです。
 ギターを加える場合、演奏会場の広さや合唱団の規模によっては何らかの音響設備の使用を検討してみてください。ちなみにギターを省き、ピアノ伴奏のみでも十分な演奏効果が得られます。
 「未来へ」について、初演時のプログラムノートに私は「子どもたち、若者、そして私を含むオジサン・オバサン、おじいちゃん・おばあちゃん世代まで、同じ地平に立って歌える歌になったらいいな」と書きました。この思いに従ってその後実際に同声二部や混声三部に編曲し、『教育音楽』誌に発表しています。音が取りにくい箇所もほんの少しだけありますが、そんなことはあまり気にしないで、大人も子どもも大声で歌い合えたら素敵だなと思います。
[難易度]中級 [対象]高校生・大学生・一般合唱団

曲目一覧
1 歌っていいですか【混声4部合唱/伴奏:ピアノ】
作詞:谷川俊太郎/作曲:信長貴富

2 泣いているきみ【混声4部合唱/伴奏:ピアノ】
作詞:谷川俊太郎/作曲:信長貴富

3 かなしみはあたらしい【混声4部合唱/伴奏:ピアノ】
作詞:谷川俊太郎/作曲:信長貴富

4 未来へ【混声4部合唱/伴奏:ピアノ】
作詞:谷川俊太郎/作曲:信長貴富 ※ギターパートあり(省略可)

【著作】 谷川俊太郎 詩/信長貴富 作曲
【価格】 ¥1,680 (本体¥1,600+税)
【判型】 A4変・64頁
【発行】 2009年10月
【ISBNコード】 427654484X
  9784276544840

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